年金受給に必要な保険料の納付期間を知っておきましょう!

2012511日 某新聞

 いざという時に守ってくれるのが社会保障の制度ですが、すべて当事者が申請しないと制度を利用することができません制度を知り、適確に対応することは、ライフ&マネープランを考える上で、大切なリスクマネジメントとなります。

 しかしながら、多くの方が関心を寄せる国民年金が、老後の所得保障だけでなく障害を負ったときや死亡時にも、条件を満たせば給付が受けられることは、あまり知られていないようです

 保障を受けるためには、保険料をどれだけ支払っていたかが問われますが、収入のない学生や経済的に支払いが困難な場合等は、それに対応してくれる制度もあります。前回は、その一つ、学生納付特例について詳しく紹介しました。今回は、保険料免除制度と若年者納付猶予制度について見てまいります。

障害基礎年金、遺族基礎年金で問われる保険料納付要件とは?

 そもそも、年金を受給するための保険料納付要件とはどういうものでしょうか? 老齢基礎年金を受給するためには、原則、25年間の保険料を納付した、または納付したとみなしてくれる期間(受給資格期間といいます)が必要です。障害基礎年金、遺族基礎年金も、受給に必要な他の条件を満たしても、受給資格期間を満たしていないと受給できません。

 障害基礎年金、遺族基礎年金の受給に必要な受給資格期間とは、次の(1)と(2)の期間をいいます。

 (1)初診日(遺族基礎年金の場合は死亡日)の月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間と保険料免除期間、学生納付特例期間、若年者納付猶予期間を合わせた期間が3分の2以上あること。

 (2)上の(1)の要件を満たさなくても、平成28年3月31日以前に初診日(遺族基礎年金の場合は死亡日)がある場合は、初診日(または死亡日)の月の前々月までの直近の1年間に保険料の未納期間がないこと。

 免除申請や納付猶予申請をしておくことは、なにもしないで保険料を払わない「未納」の状態とは大違いです。万が一、障害基礎年金に該当するような障害を負った場合や扶養している妻子を残して死亡した場合、障害基礎年金、遺族基礎年金を受給するためには、上記の受給資格期間が必要で、免除申請期間や学生納付特例期間は保険料を払わなくてもこの受給資格期間になるからです。

保険料の申請免除制度

 国民年金の保険料は、月額14,980円ですが、所得が少なく保険料の納付が困難な人は、市区町村の国民年金窓口に申請して、承認されると納付が免除されます。

 申請免除の対象になる人は、(A)前年所得が一定額以下の人、(B)失業、倒産、事業の廃止、天災などにあったことが確認できる人、などです。

 前年所得が一定額以下の場合は、その前年度所得と扶養人数により、全額免除から4分の1免除まで4段階があります。4段階の保険料の納付額は表のとおりです。(一定基準額は欄外のURLをご参照下さい)

 ここで注意したいのは、前年所得額は世帯単位で見るということです。「申請者本人」「申請者の配偶者」「世帯主」のいずれもが一定額以下であることが求められます。つまり本人だけでなく、家族の所得額も問われることになります。本人の所得だけを見る学生納付特例と違うところです。

 申請は、次の必要なものを持参し、市区町村の年金窓口で「国民年金保険料免除・納付猶予申請書」を記入し、提出して下さい。(1)年金手帳または、基礎年金番号がわかるもの(2)印鑑(本人が署名する場合は不要)(3)他の市区町村から転入した場合は、前年の所得を証明するもの(4)失業などを理由とする場合は、離職票など

若年者納付猶予制度

 30歳未満の人で、所得が少なく、保険料の納付が困難な場合は、市区町村の年金担当窓口に「国民年金保険料免除・納付猶予申請書」を提出し、承認されると納付が猶予されます。

 対象になる人は、(A)前年所得が一定額以下の人、(B)失業、倒産、事業の廃止、天災などにあったことが確認できる人、などです。(A)の額は、本人だけでなく、配偶者もこれに該当していることが必要ですが、あくまでも本人と配偶者だけで、親と同居しているような場合でも、配偶者以外の同居人の所得は関係ありません。手続きに必要なものは、保険料の申請免除制度の(1)〜(4)と同じです。

申請免除制度、若年者納付猶予制度とも、年度内なら遡及申請できる

 申請免除、若年者納付猶予制度の承認期間年度は7月(または20歳の誕生月)から翌年6月までで、申請期限は年度末である6月の翌月、7月末までです。

 失業し経済的に困難なBさんの例で見てみましょう。Bさんは、平成23年4月から現在まで保険料を払わず、何の手続きもしていません。このままでは未納期間となってしまいます。Bさんが、24年7月末までに申請し、承認されると、23年7月から24年6月までは受給資格期間になります。残念ですが、23年5月、6月は前年度ですから、すでに承認期間が過ぎているため、保険料を払わなければ「未納期間」となります。

年金の減額ってどれくらい?

 さて、若年者納付猶予、学生納付特例が承認されると、保険料を支払わない期間でも、受給資格期間にはなりますが、払っていないので将来の老齢基礎年金の受取額は少なくなってしまいます。

 では、保険料を払わない期間分減額される額とは、いったいどれくらいになるのでしょうか?おおよその額として、次のようにお考え下さい。

 保険料を20歳から60歳まで40年間払った場合、老齢基礎年金(国民年金1階部分)は満額受給でき、平成24年度の額は、786,500円です。ザクッと見まして、40年間でおよそ80万円、保険料を1年間払うと年金額は約2万円になる、と考えるとわかりやすいですね。

 例えば、学生納付特例を2年間受けた場合で、残りの38年間保険料を払った場合、

 38×2万円=76万円(今年度はおよそ747,000円)になります。

 学生納付特例、若年者納付猶予や未納期間などが10年間あり、保険料を払った期間が30年間の場合は、30×2万円=60万(今年度はおよそ59万円)となります。

 以上のように、老齢基礎年金は、20歳から60歳までの保険料払込期間が反映され、65歳から年金として受給でき、その額が生涯続くことになります。(免除期間は、一部、年金額に反映されます)

保険料の「追納」が可能

 免除や猶予期間があり、老齢基礎年金の受取額が少なくなるのはイヤ、という方。経済的にゆとりができたときに、10年前まで遡って納付することができる「追納」制度があります。

 この場合、2年度前までは当時の保険料額ですが、3年度目以降は、加算額がつきます。例えば、学生納付特例で2年間猶予を受けたCさん。就職して1年間お金を貯め、2年目に追納する場合、1年分は当時の保険料額だけ、1年分は当時の保険料+加算額となります。

 なお、「未納」の場合は、過去の保険料を遡って納付できるのは2年分だけです。(平成24年秋から3年間に限り、10年間遡及納付ができる予定です)

追納した保険料は、所得税の還付申告を

 生計を同一にしている配偶者やその他の親族が負担することになっている社会保険料は、支払った人が還付申告をすることができます。例えば2年分を追納する場合は、その追納額はおよそ36万円。たくさん税金を払っている親と生計を同一にしている場合は、親が申告することで、それなりの還付が受けられます。参考URL 日本年金機構【私のつぶやき】  年金の話は、年代によって反応がずいぶん違います。年金が身近になる50歳以上の方々は真剣そのもの。切実感が違います。一方、若い方々には「40年後のことなんて想像できないよ」と老齢時に収入がないことの切実さが伝わりません。  未払い年金の遡及納付は2年前までしかできませんから、年金の大切さがわかる頃では、納めたくても(?)納められない。もう取り返しがつかないのです。これが年金制度のコワイところではないかと、様々な方からのご相談を受けるにつけ思います。

プロフィール 守屋 三枝 (もりや・みえ)  特定社会保険労務士、FP技能士。企業の労務管理の相談に応じるかたわら、企業研修等の講師、書籍や雑誌のお金に関する記事の監修などをおこなう。3世代同居7人家族の舵取り役25年(21女は独立)。 守屋社会保険労務士事務所 (201252日 読売新聞)

 

九度山 真田の庄