韓国に負けた戦略ミス…エルピーダ破綻

2012228

 エルピーダメモリの破綻は、日本の製造業の苦しい実態を象徴している。1980年代に世界で圧倒的な存在感を示した日本の半導体事業は、円高や経営判断の誤りで新興国にその座を明け渡してしまった。
 半導体は様々な家電製品や電子機器に使われる「産業のコメ」と呼ばれ、80年代に世界市場を席巻して日本の“お家芸”と言われた。85年には、生産量で米国を抜いて世界一となり、米国との間で半導体摩擦と呼ばれる貿易問題まで引き起こすほどだった。
 だが、同年にドル高是正で先進5か国財務相・中央銀行総裁会議で合意。急速な円高が進み始め、日本の競争力は次第にそがれていった。
 さらに、日本勢の戦略の読み違えが追い打ちをかけた。日本は需要の少ない大型のコンピューター向けを得意としていた。だが、95年には米マイクロソフトがパソコン用基本ソフト(OS)のウィンドウズ95を発売し、パソコンの急速な普及は確実視されていた。90年代以降に台頭した韓国サムスン電子などは、こうした動きを見越して、巨額投資を続けた。
 半導体には、2〜3年で市況が大きく変動する「シリコン・サイクル」があるが、韓国勢は市況が悪化した時も大型投資を続けた。

 一方、市況悪化を懸念する日本勢は生産増による価格下落を避けるため、投資を絞り込んだ。日本勢は韓国勢を追いかける形で投資を行ったが、最先端の製品開発も遅れる「悪循環にはまった」(経済産業省幹部)という。現在、半導体の売上高で世界10位以内に入るのは東芝とルネサスエレクトロニクスだけだ。
 エルピーダの坂本幸雄社長は27日の記者会見で破綻の原因について「(DRAM価格が)1年前に比べ3分の1にまで落ち込んだ」と指摘した。しかし、DRAM世界一のサムスンはフラッシュメモリーやスマートフォンなども手掛け、市況の悪化に業績が左右されにくい。
 フラッシュも手掛けるマイクロンとの提携交渉を早い段階で始めていれば自力再建の道は開けたかもしれない。

エルピーダメモリ破綻 負債4480億円、製造業最大 円高追い打ち

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 国の支援を受けて経営再建中の半導体大手、エルピーダメモリは27日、会社更生法の適用を東京地裁に申請し、経営破綻した。昨年3月末時点の負債総額(単体)は4480億3300万円で、国内製造業では過去最大。世界的な競争でパソコンなどに使う記憶用半導体が大幅に値下がりし、歴史的な円高が追い打ちをかけた。米国メーカーなどとの資本業務提携で生き残りを模索したが、交渉が難航、自主再建を断念した。
 かつて世界を席巻した日本の半導体大手の破綻は、韓国勢などとの競争激化や円高で苦境に立つ日本のモノづくりが岐路に立たされている現状を示す。

 枝野幸男経済産業相は同日、破綻に関連して最大280億円の公的資金が焦げ付き国民負担となる恐れがあると記者団に説明。「大変残念な事態だ。国内経済や雇用への影響を最小限にとどめ、中小企業対策に万全を期したい」と述べた。
 会見した坂本幸雄社長は「ご迷惑をおかけした」と陳謝し、「現経営陣が中心となり事業を行う」と述べた。今後は東京地裁が監督委員兼調査委員に選任した土岐敦司弁護士のもとで支援企業の選定を行う。
 同社破綻に関連し、半導体組み立て子会社の秋田エルピーダメモリ(秋田市)も更生法適用を申請。ただ坂本社長は広島工場(広島県東広島市)や秋田エルピーダなどの工場閉鎖やリストラについて「今は考えていない」と説明した。
 一方、東京証券取引所は東証1部の同社株式を3月28日に上場廃止にすると発表。同月27日までは整理銘柄として取引できる。
 エルピーダはリーマン・ショックで業績が悪化した平成21年に改正産業活力再生特別措置法の初適用を受け、日本政策投資銀行からの300億円の出資や、銀行団の1千億円超の協調融資を受けた。だが、24年3月期は1千億円超の連結最終赤字の見通し。社債償還や融資返済期限が3月末に迫り、一部支援行が支援継続に難色を示していた。

エルピーダ破たん!公的負担280億円発生で問われる産業政策 

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[東京 27日 ロイター] 「日の丸半導体」として国の公的資金を受けていたエルピーダメモリ<6665.T>が27日、法的整理の道を選んだことで、国に280億円の損失が発生することになった。2009年に産業活力再生特別措置法(産活法)の適用第1号となり、公的資金300億円が注入されたほか、政府保証の融資100億円も受けているためだ。
国が民間企業に直接・間接に出資する動きが増える中、そうした手法が有効なのかどうか。損失が発生した際の責任をどう取るのか。改めて産業政策も問われることになりそうだ。
<政府も「結果責任取るべき」との指摘>
「半導体事業に公的資金を入れてもいいのだろうか」――。09年、産活法の認定を受け公的資金の注入を受けたエルピーダに対して、当時、ある外資系証券幹部はこう漏らした。リーマン・ショックの世界経済の混乱で、世界中の企業が危機に陥る中、日本も「危機対応」の名目で国が民間企業の救済の前面に立たざるをえなくなっていた。
産活法の認定を受け、エルピーダには政策投資銀行が300億円出資(現在は284億円)したほか、危機対応融資として100億円を貸し出している。このうち、出資分には8割、融資には5割の政府保証が付いており、同社の破たんにより、政府保証した計280億円に損失が発生することになる。
枝野幸男経済産業相は27日夕、記者団に「エルピーダへの公的支援、当時の判断としては当然だった」と発言したうえで、法的整理についても「需要落ち込みや価格下落によりやむを得ない」と述べて、政府への責任論をけん制した。しかし、融資を実行した取引銀行幹部の中には「確かにDRAMは価格の変動が激しく、3年先どころか1年先さえ見通せない業界。だからと言って、政府が結果責任を取らなくていいということにはならない」と批判する。
<政府出資の民間企業は増加の方向>
懸念されるのは、「国による間接・直接的な民間企業への無造作な出資が増える動きがある」(メガバンク幹部)ことだ。官民ファンドとして設立された産業革新機構は昨年12月の第3次補正予算で、投資資金がこれまでの9000億円からさらに1兆円拡大され、1.9兆円に増えた。同機構は、国内のベンチャー企業や事業再編により誕生する企業などに出資する。今春に発足するソニー<6758.T>と東芝<6502.T>、日立製作所<6501.T>による中小型液晶パネル事業の統合会社に対しても2000億円を出資する計画だ。このほかにも、ルネサスエレクトロニクス<6723.T>と富士通<6702.T>、パナソニック<6752.T>3社が、苦境に陥っている半導体のシステムLSI(大規模集積回路)事業を切り出した上で新設する会社にも出資する案が浮上している。
しかし、あるメガバンクの役員は「どちらのケースも『負け組』の寄せ集め。新会社の成長というよりは、親会社の都合が優先されている」と指摘し、「革新機構の出資が、リスク・リターンの経済規律に基づいているのかどうか心許ない」と懸念する。もともとエルピーダも、1999年にNEC<6701.T>と日立製作所<6501.T>が統合したDRAM事業に、03年には三菱電機<6503.T>が合流した企業で、「液晶もシステムLSIの新会社も、既視感を感じる」(ファンドマネージャー)との声さえ出る始末だ。投資ファンドの中にも「日本は政府の資金が全面的に出過ぎつつあるのではないか。民業圧迫だ」といら立つ声もあり、民間企業の再建に政府がどこまでかかわるべきなのかが問われそうだ。